人魚姫とさよなら/みぎめ ひだりめ
駅前の広場には 冷たい光が流れてて
わたしたち まるで 水族館のなか
ふたりで買った 炭酸水が
手のなかで 静かにゆれる
君は なにも言わずに
じっと ボトルの気泡を数えてた
わたしも それを見つめてて
しゅわ しゅわわ ぶくぶく
人魚姫の 最後の吐息
「今日は あついね」
君は ぽつりと言った
世界から音を すべて奪ったら
きっと こんな感じになる
うろこ雲が 魚影のように広がってて
声の調子が 前よりも ちょっと低くて
なんとなく さ 遠いような気がして
「夏だもんね」
わたしは 遠くの青色を 見つめて
どうにか 言葉を 吐き出した
いま うまく笑えてる かな とか
もう よく分かんなくて
陰るみたいに 声が掠れていくので
たまらず 手に持った泡を飲んだ
炭酸の抜けた ぬるい水の味は
なんとも言えないような 苦さで
わたしは少し 顔をしかめた
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