越境者/凍湖
境とは細い線のようなものではなく
どこまでもどこまでも続く長い道のりのどこかにあるまぼろし
どこかで今までの着物を焼き捨てて
河岸を変えなけりゃ
この旅行きは終わりやしないが
そもそもどこも目指してはいないので
見知らぬ土地へ踏み出してゆくだけの足を
そら恐ろしい気持ちで見守っている
窒息する土地から逃れるためがむしゃらだけど
ゆく先の土地で息ができる保証などない
それでも足は歩んでる
新しい名をお披露目すると
古い名はDEAD NAMEと呼ばれる
ではDEAD NAMEの間、わたしは生きていなかったのか
そうか
そうか?
いつかの晩、赤んぼうが生まれて
泣き声をあげた
息を吸うために
あれからどれくらい経った?
声をあげようとすると
まだ肺から水が出てくる
遠浅の海で泥に足をとられて
もうどうやっても進めなくて
顔をあげると
どこまでも広がる鈍色の海原と空
水平線の上を白い鳥がゆく
その白さが滲みる
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