チーバくん/無名猫
横から見た姿が
千葉のかたち
けして犬ではなく
赤い皮膚を着せられている
ぼくの足は
館山を歩き
鼻先で野田を指し
おしりで鴨川の波を撫でる
だれかの手のなかで
ゆるやかに笑いながら
ずっと千葉を象っている
存在証明が
線で囲われた陸地のシルエットだとしても
「なにかに似てるね」
という言葉の
責任の重さを
きみは知っているかい?
本当は
八街のピーナッツの香りや
銚子の海鳴り
船橋のららぽーとで出会った
泣き虫なきみの手の温度
成田の静かな夜道で
ぼくの胸をそっと揺らした
きみの淡いささやき
そんなもののほうがずっと大切だった
地図をひらくたび
ぼくはまた立たされる
わかりやすさの犠牲として
「千葉といえば」の端っこで
正しい角度を守る
それでも、きみ
もしも境界のない場所で
ぼくを呼んでくれるのなら
そのとき、千葉ではなく
名前で振り返ってもいいだろうか?
戻る 編 削 Point(6)