桃源郷/這 いずる
生きものを真似して
生きている
桃をかじり香り立つ
動物を形作る私の爪先が
伸びて減って伸びて減って
増減で年月を知るくらい
何もない日が多い
野菜を買って肉を買って米を買って
食べて食べて食べて食べて
動物にうまれて
お金を稼いで人間になって
熱海バカンスを楽しんで
軽井沢でセレブ気分味わって
プチ贅沢しようと桃を食べた
私、なにしているのかな
内蔵する響かない音響設備が鳴り
謳えない理想の桃源郷へ
必死の歌を送る
たすけて
すくって
わたしを
みつけて
空を泳がず身の奥底に落ちる
言葉の重みが重なり積み重なり
足の底を泥に沈ませる
夢ばかりある夢のような人生だった
夢想が現実になると思っていて
わたしのことを好きっていってほしかった
桃の香りがしている
目、かすんでいる
部屋に霧が立ち込み
桃源郷が迎えに来た
目をつむり
桃の香りが強くなる
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