密室〈trente-quatre 34, trente-cinq 35〉/藤原 実
 
明け方の夢の出口で
思わず振り返ってしまった古本街のオルフェが
見失ったのは未来でした

季節をカンニングしたような短いスカート
の制服の少女は
ショウウィンドウに影を吸い取られて脱色していきます

物流倉庫に住み着いた箱男は箱になりたかったのではなく
ほんとうは世界を箱詰めにして花嫁衣装を着たかったのです

興信所の事務員を務める老詩人は
薔薇色の炎を発光するマッチで
歪んだ秘密の地図を燃やします・・・

脱ぎ捨てられたワンピースのような少女の影を
消しゴムでこすると
密室の姿見は花束を妊娠します

ーー 希望します 岬の測候所に半旗を掲げていただくことを
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