LAUGHING CHICKENS IN THE TAXI CAB。/田中宏輔
学校の帰りに、駅のホームで電車が来るのを待っていると、女子学生が二人、しゃべりながら階段を下りてきた。ぼくが腰かけてたベンチに、一つ空けて並んで坐った。「こんど、太宰治が立命に講演しに来るねんて」「そやねんてなあ。あたし、むかしの人やと思てたわ」「どんな感じやろ」「写真どおりやろか」。ぼくは、太宰のことを訊こうとしたが、思い直してやめた。声をかけるのもためらわれるぐらい、二人とも美人だったのだ。間もなく電車が来た。ぼくは、違う入り口から乗り込んだ。
彼女はどこに埋められたの?
(ナボコフ『ロリータ』第二部・32、大久保康雄訳)
ぼくのハンカチの中だ。
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