脳の街のあとに/由比良 倖
栄養価の高さがうり、ですと売人は説明する
レモン水を混ぜたキュウリのような味がする
急に冷えてきたので 理科の季節ですねと嘯く
多和田葉子さんの詩が好きですと言ったら
目を真ん丸にされた
ね みんな廃墟が好きなのにね
新しい天国が乱立している
光の七色とヴァーチャルの味に
洗脳されては 脳内に川を作り
バグの無い国を私もまた 燃やしては建国する
脳 脳 脳 そして心
脳と心は離婚寸前だ
夕涼み会は図書館の中
私は化粧をして
豊作を祝う村祭りに行って
また風船を買って貰いたい
理科から遠く離れて
脳からも遠く遠く離れて
田舎の石に星を埋める
急に冷えてきた街へ
私はもう二度と帰りたくない
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