恋月 ぴのさんのひとことダイアリー
2012-08-10
鉄の球を静かに転がす 日の出の気配を背中に覚え 鈍い光を放つ鉄の球を転がす これが君と僕の記憶の全てなら ひとを信じる難しさは巣立ち間近のひな鳥 風が恋しくて 君の残香のするシーツを畳む
2012-08-09
壊れたラッパを杖代わり 通いなれた道程なのに 君の待つ部屋に辿りつけない この交差点を越えれば いつまでも青に変わらない信号機の下 傘もささず立ちつくし ぷふふふ 壊れたラップを吹き鳴らす
2012-08-08
鍵穴から吹き出す風は生暖かく牝犬の臭いがした この鍵を差し込む歓びを求め どれほど算段したことか 虹色の楽器をつま弾き 丘の上の風車は回り出す
2012-08-07
その交差点は涙で濡れていて ときたま誰かが滑って転ぶ もらい泣きほどの身勝手さじゃないけど 出がけに傘を持っていくか迷うとき 交差点の角に佇むひとりの老女に思いは及ぶ
2012-08-06
月に1度その戸棚を開けて 慎ましく隠した分度器を下腹部にそえる 女は女であることから逃げられないのだから 可愛らしいレースの縁取りも許される筈と 年甲斐もない色合いの言葉を綴る
2012-08-05
袖を通す度に取れかかったボタンに気付く 私の形に染まってくれたブラウス ハンガーにかければ もうひとりの君が其処にいるね 目ざといあなたはそんな言葉を囁き 背後から抱きしめる指先で私の心をまさぐった
2012-08-04
糸の切れた凧 どこまでも飛んでいかずに 力無く堤防の手前に落ちてしまう 自由って怖いのかな いつも友人の顔を窺う私がいるし 丸刈りの夏草に隠れ家を失った雲雀たち 戸惑い顔で群れを成す
2012-08-03
いつまでも取り込めない洗濯物 時折り迷い込む夏の風に煽られ 悪戯な彼のしぐさを思い出し 打ち水の手桶に休むアキアカネ 気のせいか日暮れの早さに影を追う
2012-08-02
石畳みの坂道を歩む 牛車の通った緩やかな坂道 木陰の恋しい季節ゆえ 躊躇うそぶりに額の汗を拭い あれは陽炎 いつしかの恋の残像
2012-08-01
貼り損ねた切手みたいだと言われた ミシン目通りには行かなかった私の人生 他人行儀な挨拶に終始した手紙のように 馬追いの青空は底抜けではためく旗に肩透かしをくらう
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